みなさ~ん! 「黒神話:悟空(Black Myth: Wukong)」(PC / PS5)での冒険を楽しんでますか~? そんでもって,ゲームに出てくる「西遊記」の用語を調べたくなってきたな~なんて思っていたりしません? そうでしょうとも,そうでしょうとも。
中国のデベロッパGame Scienceが開発する「黒神話:悟空」は,中国古典小説の「西遊記」をベースとしたシングルプレイのアクションゲームだ
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題材となっている「西遊記」の知識がなくともアクションゲームとして十分楽しめる。しかし,いざプレイしてみると考察しがいのある物語に魅せられ,用語の意味や元ネタをついつい調べたくなってしまう……。
原作をイチから読み返す勇気はないけど,孫悟空の物語だけは知っておきたい,なんなら関連用語をまとめてチェックしたい……。そんな人に向けて「黒神話:悟空」の物語をより深く理解するための基礎知識をお届けする。
記事の前半では,「西遊記」で描かれた孫悟空の軌跡と関連用語を解説し,後半では衝撃の展開を見せるプロローグの内容を補足つきで紹介している。記事の性質上,ゲーム冒頭シーンのネタバレを含んでしまうため,ネタバレを回避したい人はプレイ後に読んでもらえれば幸いだ。
※「西遊記」のエピソードはさまざまな解釈や諸説があるため,本稿での解説内容は絶対的な正解ではなく1つの参考としてお読みください。
あのプロローグにいたるまでの孫悟空の軌跡
「黒神話:悟空」のプロローグでは,物語の舞台が「西遊記」後の世界であることや,孫悟空の置かれている現状,根が深そうな天界との確執をほのめかしながら“孫悟空の物語の最後”が描かれている。そのすべてを読み取るには,三蔵一行として活躍する以前の孫悟空を知るのが手っ取り早く,あのシーンにいたるまでの経緯も把握しやすくなるはずだ。
そんなわけでプロローグの紹介へ入る前に,知っておくと物語がハチャメチャに面白くなる“孫悟空の軌跡”をざっくりまとめてみた。長文は苦手だニャー,という人は以下のポイントだけでも覚えていって!
<てっとり早く知りたい人向けのざっくりポイント>
・花果山は孫悟空の生まれ故郷であり何万もの子分が住まうホームだった
・孫悟空は天界,地府(冥界),竜宮でやらかしまくり天界から危険視されている
・天界の神仏は厄介者の悟空を手元に置き懐柔したかった
・天宮からの脱走後,顕聖二郎真君に敗北し天宮へと連れ戻されている
・五行山で500年封印されたあと,三蔵法師とともに天竺へ向かった
・旅を終えた褒美として闘戦勝仏の名を授かり仏となった
・美猴王,斉天大聖,闘戦勝仏はすべて孫悟空の別称
石猿から闘戦勝仏にいたるまで
孫悟空の物語は,東勝神州の海の彼方にそびえる花果山(かかざん)から始まる。ある日,花果山の頂にある霊石が割れると,蹴鞠ほどの石の卵が現れ,そこから一匹の石猿が誕生する。父も母もなく大地の子と称されるこの石猿は,のちの美猴王(びこうおう)こと孫悟空である。
爆誕後は猿の王として花果山で数百年ほど過ごす。命の儚さに涙したことをきっかけに,自身の死を回避する方法を模索しはじめる
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不老長寿の術を求めて仙人・須菩提祖師(しゅぼだいそし)に弟子入りした石猿は,祖師より“孫悟空”という名を賜り,修行のすえ仙術を体得する。
その後,天帝の召集に応じ天界で暮らすことになるが,与えられた役職に不満を抱き脱走。説得され天界へと舞い戻るも,今度は好き放題に暴れた挙げ句に花果山へ逃げ帰ってしまう。その度重なる暴挙は天の怒りを買うこととなり,孫悟空は顕聖二郎真君(けんせいじろうしんくん)に捕らえられ,釈迦如来の手で五行山に封じられてしまうのだった。
それから500年の時が経ち,観音菩薩の計らいによって三蔵法師の旅に同行することになると,ようやくその封印が解かれる。経典を求め天竺を目指す長く険しい旅を終えると,釈迦如来より闘戦勝仏というありがたい名を授かり,仏としての地位を手にする。
こうして「西遊記」での孫悟空の物語は幕を閉じ,闘戦勝仏(とうせんしょうぶつ)となった彼が天の使者と激闘を繰り広げる「黒神話:悟空」のプロローグへとつながっていくのだ。
覚えておきたいキーワード解説
「黒神話:悟空」は「西遊記」をベースにしているだけあって,作中の用語や固有名詞を目にする機会がわりと多い印象だ。そのすべてを把握するとなるとなかなかに大変なので,今回はゲームの序盤で最低限覚えておきたい用語をピックアップしてみた(その割に長くなってしまったが)。
・三界,六道
三界とは衆生(生命のあるすべてのもの)が生死流転する迷いの世界のことで,欲界,色界,無色界の3つが存在する。六道は,衆生がその業によっておもむく世界を指す。地獄道,餓鬼道,畜生道,修羅道,人道,天道の6つの世界で輪廻転生を繰り返す。この用語に関しては,こういった概念があることだけおさえておけばOK!
・天庭,天宮,天帝
天庭と天宮は,天界を指す言葉という認識で問題ナシ。天帝(玉帝)は天上の最高神と覚えておこう。
・花果山
天地が生まれ出でしときから,東勝神州・傲来国近くの大海にそびえる山。花果山の霊石から生まれた孫悟空にとっては,故郷であり,長きにわたり王として君臨した“勝手知ったるホーム”である。この山にはもとより大勢の猿が住んでおり,孫悟空(美猴王)を絶対的なボスと崇めていた。
実りの豊かな山であったが,孫悟空が五行山に封印される折に顕聖二郎真の率いる軍によって焼き払われ,満目荒涼としたさまに成り果てている。これをきっかけに子分の多くが死に,500年後に花果山の地を訪れた孫悟空はその光景を目にして悲しんだという。その帰郷の際に手ずから山を復興し,生き残った猿たちに稽古をつけたというエピソードもある。
・須菩提祖師
孫悟空に仙術を仕込んだ師匠。名前を持たなかった石猿に孫悟空の名を与え,弟子として迎え入れた。祖師はほかの弟子を差し置き,多くの仙術を孫悟空に密かに伝授した(授けたのは,72通りの変化の術,觔斗雲の法)。弟子としてかわいがっていたようだが,孫悟空の持つ悪い気質を見抜くとあっさり破門にしてしまう。
・顕聖二郎真君
竜宮,地府,天界で好き放題暴れる孫悟空を征伐するため,天界から遣わされた人物。天界屈指の強者とされる彼は,天帝の甥っ子という設定かつ,額に第三の眼を持つ美丈夫だ。武術に長けるだけでなく変化の術も使いこなし,孫悟空との戦いでは化け合戦を繰り広げた。お供に哮天犬(こうてんけん)という神犬を従えている。
天帝の命を受けると,打倒・孫悟空を掲げて梅山の六兄弟と大勢の神兵とともに花果山へ攻め入る。強者たる顕聖二郎真君であっても孫悟空を容易に倒すことはできず,戦いは拮抗するばかりでなかなか勝敗がつかない。しかし,これを見かねた太上老君の助力を得て,最後には捕縛に成功する。1対1のフェアな戦いだったとは言いがたいが,孫悟空にとっては敗北を知ることとなった因縁の相手だ。
・五行山
天に捕らえられた孫悟空が長きにわたり封じられた山。
本来ならば罪をあがなうために斬首される予定だったのだが,孫悟空の体が鋼のように堅く,刃も炎も雷も効かなかったため,釈迦如来の手によって五行山に封じられるにいたった。
封印されている500年間,孫悟空の世話係をしていたのは界隈の土地神(とちじん)。山に封じた孫悟空が飢えそうなら鉄丸を食わせ,のどの渇きを訴えたら銅汁を飲ませよと,釈迦如来は慈悲の心で命じたそうな。飢えるよりはマシだけど,溶けた銅の汁って……えぇ。
・美猴王,斉天大聖,闘戦勝仏
すべて孫悟空の別称。美猴王(すぐれた猿の王)はただの石猿から猿の王にジョブチェンジし,花果山を治めていた頃の呼び名。
斉天大聖(天と同格のすぐれた人)は,天界への反骨精神で名乗り始めた。孫悟空を慕う妖魔からすれば納得の尊称なのだが,天の神仏からすると「地上の化け猿ごときが天と同格など不敬にもほどがある!」とブチ切れる案件だったりする。
闘戦勝仏は釈迦如来が授けた名で,これによって不老不死の仏の位が与えられた(天界での暮らせるありがたい権利付き)。“前向きに解釈”するならば,天界からのご褒美ということだ。
このほかにも,「西遊記」には天界の馬の世話係“弼馬温(ひつばおん)”という役職名も出てくるが,賤職にあたる弼馬温に任命されたことは孫悟空にとっての黒歴史らしく,この呼び名が使われることはほとんどない。
孫悟空の最後の物語と旅のはじまり。衝撃のプロローグをちょこっと解説
緑が茂る山を下り,觔斗雲に飛び乗る孫悟空。入り組む山間を抜け視界が開けると,雲上には巨大な仏神,そして神兵の大群を率いる顕聖二郎真君が待ち受ける。こうして「黒神話:悟空」のプロローグは,孫悟空と顕聖二郎真君が繰り広げる激戦によって彩られていく――。
琵琶,傘,剣,蛇を手にする手前の御仁たちは恐らく四大金剛(四天王)。その奥ひときわ大きいのは巨霊神だろうか……
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「民を救い,経も持ち帰った」というセリフは,天竺へ向かう取経の旅を終えたあとであることを示唆しており,その証左として孫悟空の額から緊箍児が消えている
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「勝っても負けても花果山は更地にする」とは,帰るべき故郷を失えば,地上にこだわる理由もなくなるだろうと考えてのことだろう。容赦がない
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仏の座を捨て花果山での暮らしを望む孫悟空と,それは認められないと引き止める顕聖二郎真君。互いの主張が受け入れられないと見るや,2人は武器を手に実力行使に打って出る。拮抗する戦いは不意に現れた緊箍児によって流れを変え,顕聖二郎真君の一撃を受けることになった孫悟空はその日を境に姿を消してしまう……。
こうして老猿から語られたのは“孫悟空の物語の最後”であった。四洲に散った6つの霊宝を花果山へ持ち戻れば大聖が復活を遂げる――これより旅に出るお前たちが真に天命に帰す者ならば,それが叶うやもしれない。一縷の望みをかけ,老猿は“大聖の六根”の伝説を若き猿たちに託すのだった。こうして物語のバトンがプレイヤーに渡され,「黒神話:悟空」のプロローグは幕を閉じる。
斉天大聖の亡骸が眠るという岩は,孫悟空が生まれた霊石を思わせる
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いや~,初っ端から度肝を抜く展開がもう最高。「西遊記」リスペクト全開のセリフ回しで「秀逸な開幕劇」やないかと絶賛したいところだが,中には「二郎真君って誰……飼い殺すって何ごと……緊箍児どうした……花果山とは……?」と疑問のラッシュが押し寄せた人もいるだろう。
このあたりを解消する基礎的な知識は記事前半で言及しているので,ここからは筆者なりの解釈を交えて少しばかりの補足をしていきたい。
帰りたい孫悟空と帰したくない顕聖二郎真君
そもそも2人は,なぜ戦うことになったのか? それを探るには天界サイドにとっての孫悟空と,孫悟空にとっての天界を知る必要がある。
天界サイドにとっての孫悟空は,まさにつぎつぎと問題を起こす厄介者だ。竜宮で武具を強奪するし,寿命を迎えたくないと閻魔帳を墨で塗りつぶすし,天から与えられた役職を全うする気概もない。挙げ句には斉天大聖を名乗り,地上の妖魔を束ねて天を威嚇する始末である。しかも,肉体は鋼のように堅く,天の神々が手を焼くほど腕っ節が強いとくれば,下手に対立して相手取るのも分が悪い。かつてのように花果山で徒党を組まれてはたまらないと,天界サイドは仏の位を与え天宮に縛り付けておきたかったというわけだ。
天宮暮らしを過去に二度経験した孫悟空にとって,天界は苦い思い出の多い場所だ。二度とも脱走に至っていることからも,わざわざ舞い戻りたい場所でないのは容易に想像できる。ましてや,天の一存で500年も五行山に封じられた過去を思えば,自由を脅かす天界から離れたくなるのも当然だ。
だからこそ,天界に縛り付ける口実として闘戦勝仏の名を授かるのは,孫悟空にとってありがた迷惑だったのかもしれない。
顕聖二郎真君との戦いはリベンジマッチ
孫悟空は過去に顕聖二郎真君と戦い敗北している。いわばプロローグの戦いは,孫悟空にとってのリベンジマッチになるのだが,じつはその内容がけっこうアツい。1対多勢の図式はもちろんのこと,前回の激闘をなぞらえるような展開が「西遊記」リスペクトに溢れているのだ。
「西遊記」で繰り広げられた2人の激闘は,白熱の剣戟から始まり,息もつかせぬ化け合戦を経て,最後は太上老君の横やりによって孫悟空が敗北する。今回もその流れを汲んでいるのか,緊箍児が孫悟空の動きを封じたことで顕聖二郎真君に勝利をもたらしていた。元ネタを知っていると「まさに『西遊記』で見たあの戦いやないか!」と,テンションがブチ上がる展開だったのだ。
消えていたはずの緊箍児はなぜ復活したのだろうか? 顕聖二郎真君が経を唱えたのか,それとも天から見守る何者かの仕業なのか?
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リベンジマッチには顕聖二郎真君のお供,哮天犬も駆けつけていた。「弁えろ,駄犬」と叱られているのがかわいかった
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孫悟空が敗北する衝撃のプロローグによって幕を開けた「黒神話:悟空」。これから天命人がどのようなドラマを生むのかが気になるところ。伝承通りに孫悟空は復活を遂げるのか? 復活を遂げた暁に倒すべき相手は一体誰なのか? 「西遊記」のその後をつむぐ物語の結末やいかに――しかと刮目せよ。
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